【あきののろるにっき#22】僕がプロシーンの観戦にドハマりしたのは、5頭の狼のせいだった。
2016年5月。
初夏にしては汗ばむ日で、夕方近くになっても未だ続く炎天下の中、僕は庭の草刈りをしていた。
肌を焼く西日。
そして、大型バイクもかくやといった音量でうなりを上げる、使い古した草刈り機のエンジン音がうるさかった。
音を遮れればなんでもよかった僕は、ズボンのポケットに入れていたスマホでTwitchをポンと押し、イヤホンを付け、適当な配信を音声だけ聴くことにした。
日本サーバーが来る直前、2015年の冬からLoLを始めた僕。
ロールプレイングゲームのレベル上げですらすぐに音を上げる性分にとって当時のLoLのシステムはあまりに残酷で、ゲームの起動は月に一度くらいだった。
当然プロシーンなんて視聴したこともなく、日本のチーム名も全く知らない。唯一知っていたのは、心臓に毛が生えた、つぶらな瞳のロゴのチームがあるという事だけだった。何故知っていたのか、今となっては全く覚えていないけれど。
噂で、韓国のSKTelecom T1というチームが鬼の様に強く、Fakerなる選手が「不死の魔王」と呼ばれている事だけは聞きかじっていた。
そのラスボスが出ているというので、「ちょうどいいや」と視聴決定。
所詮は1時間の暇つぶし……と聴いていたら、英語実況のテンションが大暴走のフルスロットルで面白かったので、草刈り機を置いた後もPCで視聴することにした。
そこで目に飛び込んできたのは、台湾が誇る狼集団 Flash Wolvesの姿だった。
昨年度に世界一をかっさらった最強チーム、SKTとの対戦。
「調子は悪いながらもSKT持ち」の声が解説陣から上がる。
どうやら、韓国と台湾では、所属地域の時点で圧倒的な地力の差があるみたいだった。
が、ユニフォームを見た瞬間、僕の心はカシオペアに睨まれたみたいに固まってしまった。
黒いユニフォームに躍るは「我狼」。
白いユニフォームに輝くは「宅米」。
狼の方がなんだかかっこよさそうだ。
そして、事前の世評では狼の方が分が悪いというではないか。
ならば、勝て、Flash Wolves!
ーーーーしかして彼らは、見事なジャイアントキリングを巻き起こした。
その時、胸に光った誇り高き「我狼」の文字。
その光景に、僕は夢中になった。
1.弱い方を応援しちゃう性分
先程も少し漏らしてしまったが、僕はとにかく昔から「弱者が強者に勝つ」という構図が好きな人間だった。
大乱闘スマッシュブラザーズDXならピチューを使ったし、Civilization4ならアラビアを使ったし、野球なら阪神を応援していた(ほとんど伝わらないし、なんなら一部から怒られそうな例えだ)。
そんな僕が、当時世界最強と言われていたSKTとFlash Wolvesの試合を見て、Flash Wolvesを応援したのは必然だったかもしれない。
とにもかくにも、この試合を見てFlash Wolvesに興味を持った僕は、このチームと、所属地域であるLMS(台湾・香港・マカオ地域)を調べてみることにした。すると、
- Flash Wolvesは2015年以降常に地域内では上位争いに絡み続け、大抵は優勝をかっさらうという、LJLで言うところのDFMみたいな立ち位置。
- LMSは韓国(LCK)や中国(LPL)よりも強さで一段劣る。(現在の韓国と日本の中間くらいの位置)。なので、中国や北米には当然の様に負け越す。
- そのくせ、世界最強地域の韓国相手だけはやたらめったら強い。
なんだこれ。対韓国用最終兵器か?
俄然興味がわいた僕はSKTを放り投げ、MSI期間中は全力を挙げてFlash Wolvesを追うことにした。
2.対韓国最終兵器 Flash Wolves
すると、面白いくらいに北米と中国に負ける。そしてSKTに勝つ。
他のリージョン相手だと普通にやって普通に負けるくせに、SKTが相手となった途端に集団戦の精度が格段に良くなるのだ。
また、あるゲームなど、タワーとヘラルドを1つずつ渡しただけで、
・タワー11本
・インヒビター3つ
・バロン2つ
・ドラゴン6つ
を取ったりもした。
今では僕も「LoLは有利を築いているチームが更に有利を拡大していくゲームだから、ゲーム時間が延びるにしたがって有利やオブジェクト差が開いていくのは自然な事」なんてさかしらぶった事も言えるようになったが、
当時は「エコーはタンクでTopレーナー」「ガレンはアサシンJGでタリックを狩るところからジャングリングが始まる」と本気で信じていた魔境民だ。
そんな僕が「対韓国」と「対韓国以外」の変貌ぶりを見たときの興奮は、金メダルを取ったオリンピック選手もかくやといった具合であった。ほんの少し前に知ったチームに、何故か自分の思いを託してさえいた。
そして知った。「あぁ、多分、これがプロシーンを観戦するってことなんだ」
3.夢の終わり
韓国・ヨーロッパ・トルコから2勝ずつで合計6勝、中国と北米から2敗ずつで合計4敗という、とても分かりやすい6勝4敗で、Flash Wolvesはグループステージを抜けた。
(余談:Flash WolvesはG2相手に2勝している。MSI2019優勝、WCS2019準優勝を飾った今では信じられないかもしれないが、当時のG2は国際戦に極端に弱かったのだ)
Flash Wolvesは、しかして準決勝で北米代表のCounter Logic Gamingと当たってしまった。
結果は1-3で敗退。
一矢報いただけ良かったかもしれない、そんな力の差があったように感じた。
なお、この大会の優勝は、ギリギリの成績でグループステージを勝ち上がったにもかかわらず、準決勝から神がかった復調を見せて他を圧倒したSKT。
彼らの準決勝の相手がFlash Wolvesであったなら、MSI2016の世界線は変わっていた……かもしれない。
4.その後のFlash Wolves
MSI2016での輝かしい「SKTキラー」ぶりを見せつけた後、Flash Wolvesは2016年のSummerから2019年のSpringまで、LMSにおいて実に6つのSplitを連続して優勝を飾った。
しかし、度重なる名選手・名コーチの引き抜きによる人材払底、そしてLMSとLST(東南アジア)の統合が決定打となり、2019年のシーズン終了後に解散を発表した。
だが、当時のFlash Wolvesの魂は息絶えていない。
MSI2016で光を放ったプレイヤー達のうち、MidのMapleはLPLのLNG Esportsで、SupのSwordArtは同じくLPLのSuningで、JGのKarsaもLPLのTop Esportsで、いずれも超一流の選手として活躍を続けている。
LPLは試合数が多く、全試合はとても観戦出来ていないが、それでもたまに彼らの名前を見つけたとき。
僕の心のユニフォームに、あの頃の「我狼」の文字が浮かび上がってくる気がするのだ。
(文:あきのあまき)