【あきののろるにっき#30】LJL 2020 Summer Finals ドラフトの裏に見えた、両チームの見えない攻防。
こんにちは、あきのです。
長かったような短かったような、ついにLJL 2020 Summer Splitが閉幕してしまいましたね。
DFMが2018年のSummer Splitから護り続けてきた王座がついに陥落。
そして、新たなナンバーワンに輝いたのはV3 Esportsでした。
かつては国内で栄光に輝きながらも、2018年のSpring以降は優勝から遠ざかっていたPaz選手。
台湾の名門Flash Wolvesから移籍し、チームを引っ張ろうとするあまり春には突出することも多かったBugi選手。
短い期間ながらもDFMでSubとして過ごし、Ceros選手の背中を見ていたAce選手。
今期からのプロデビューで、右も左もわからない中で初めての経験に苦労していたArcher選手。
そしてAKIHABARA ENCOUNTで2018年にLJL CSデビューして以来、日陰を歩むことが多く、時には選手ではないと間違えられることすらあったRaina選手。
様々な苦しみを乗り越え、Hw4ngコーチ、SONコーチ、そしてフロント陣と共に遂に日本一の栄光を掴んだ彼ら。
彼らとDFMのドラフトは、まさに目に見えない干戈の交わりでした。
BO5のラスト、行きつくところまで行った全5ゲーム。
今回は、その中でも特に応酬の激しかったGame1、Game4、Game5のドラフトについて、互いのコーチによるドラフト勝負という不可視の刃での斬り合いがどのように行われていたのかを推察していきたいと思います。
1.Game1
(1)ファーストバンフェーズ
①V3 Esports
1バン目のハイマーディンガーはCeros選手のターゲットバン。
ハイマーディンガーはそもそも使い手が非常に稀少なうえ、チーム単位でMid運用しているところとなるとDFMを除いて皆無であるため、対策が非常に打ちづらいチャンピオンです。
ゆえに、情報の非対称性という側面でMidレーンでの不利を確定させたくないのであればバンが安定の選択肢となります。
3バン目のレオナはGaeng選手のターゲットバン。
Gaeng選手の場合はレオナをバンしてもバード、ノーチラス、(少しTierが下がって)ラカンでもエンゲージが十分可能であるため、単体では効果の薄いバンとなっていますが、仮にバードやノーチラスであれば後述するパンテオンでレーンから圧力をかけていく狙いを持っていることから、十分な殴り合いをしてくるレオナを封じたい狙いがあったのでしょう。
2バン目のレネクトンは少し複雑です。
可能であればV3は自身でレネクトンを使いたいですが、ファーストピックで取ってしまうとEvi選手に得意ピックのナーを当てられてしまいます。かといって逆にファーストピックで取らないとEvi選手に取られ、レーンをドミネートされてしまう。この非対称性から、V3としてはバンせざるをえない状況だったと思われます。
②DetonatioN FocusMe
1バン目のガリオはAce選手へのターゲットバン。
Ace選手はレギュラーシーズンでガリオを使い、類まれなパフォーマンスをたたき出しています。使えばレギュラーシーズン必勝(5勝0敗)、バンされた回数はレギュラーシーズン+プレイオフの23ゲーム中14ゲームというとんでもない成績。
2バン目のセトは、4レーンフレックス(Bugi選手の役割的に使うかは疑問ですから実質3レーンですが)というのもありますが、なによりもRaina選手のターゲットバンでしょう。
こちらも使えばレギュラーシーズン必勝(4勝0敗)、バンされた回数はレギュラーシーズン+プレイオフの23ゲーム中10ゲームという成績です。
3バン目のケイトリンは、現パッチにおけるADCのダントツTier1。ファーストピックの権利が無いレッドサイドのDFMとしてはバンも仕方のないところです。
(2)ファーストローテーション
期待されたGame1のファーストピック。V3は準備してきたチャンピオン、パンテオンをピックしました。
パンテオンはTop,JG,Mid,Supの4レーンフレックスであり、序盤から強く、なおかつADダメージディーラーである彼をTopやMidをちらつかせることでJGにTierの高いリリアを自然に置きやすくなるという、現パッチに非常に合ったチャンピオンです。
対するDFMは先出しで安定するADCのセナと、V3のBugiの影響力を削ぐことを狙ってファーム系JGのニダリー。
それを見たV3は、Bugiキャリーが実現できるチャンプ、リリア。リリアは前述の通りパンテオンと相性が良いことに加え、ニダリーに中立クリープを奪われない速度でジャングリングすることができると共に1v1でも負けづらく、更にはLv6以降にエンゲージもダメージディーラーも担えるという良いことづくめのTier1ジャングラーです。
加えてV3は、Archer選手の得意ピックであり、UltによるエンゲージとEの視界確保によって序盤の安定性を確保できるアッシュを選択。
DFMは最後にCeros選手であればMid先出しでも安定する得意チャンプのニーコをピックし、ファーストローテーションを終えました。
(3)セカンドバンフェーズ
①V3 Esports
さて、みなさんもご存じの通り、V3はFinalsに赴くにあたり、Topサイオンという秘策を用意していました。
ファーストローテーションが終了した時点で、DFMのキャリーはMidニーコ、ADCセナでほぼ確定。キャリー二人がDPSに乏しいため、育ったサイオンがどうやっても溶かせませんからピックのチャンスです。
DFMとしては、サイオンの影響力を削ぐにはTopにカウンターピックを当て、レーンをへこませて集団戦で仕事をさせないことが一番です。ゆえに、V3はそれの防止を目的として、サイオンを一方的に殴ることができ、Evi選手の得意チャンプでもあるナーをバンしました。
2バン目のラカンバンの狙いですが、まず、後述の通りDFMがスレッシュとノーチラスをバンしたことからSupでエンゲージ可能なチャンピオンはラカンとバードに限られます。
そして、(このシリーズを通して言えることですが、)V3はDFMのGaeng選手になるべくバードかラカンの選択を迫りつつ、Game5で説明する例外を除いてバードを強制させる方針を持っていました。
以上から、バードを使わせるためにラカンをバンしたのでした。
②DetonatioN FocusMe
DFMはパンテオンをSupに寄せることを目的としてスレッシュとノーチラスをバン。
これで、ソロレーンにパンテオンを置かれた際のパンテオン-リリアのキルプレッシャーを緩和しつつ、V3のTopにタンクを置かせる腹積もりです。
(4)セカンドローテーション
DFMは、タンク同士の殴り合いならパッチ10.16でシールドが強化されているシェンが有利とみてピック。ニーコのUltにUltを合わせることで、エンゲージ・ディスエンゲージを強化できるというのも強みの一つでしょう。
このシェンピックは、おそらくV3のTopピックをオーンと読んでのことではないでしょうか。
しかしV3がAceの得意チャンプ、ルブランと共に選択したのはサイオン。そしてこのピックがゲームの帰趨を決定付けました。
ラストピックでDFMはTop運用予定であったシェンをSupに送り、カミールをピックしてサイオンの影響力を削ぐことも考えましたが、最終的にはエンゲージ不足を憂慮してかSupにバードをピック。
これではサイオンを溶かすビジョンが見えないため、ゲームの中ではセナが脅威アイテムを積み、サイオンを無視してV3のキャリーラインを先に溶かす作戦に出ましたが、最終的にはPaz選手の巧みなサイオンさばきによって集団戦でのエンゲージを許してしまいました。
結果、どう頑張っても落ちない要塞を前に屈したDFMが1ゲーム目を落とすことに。
このゲームは、まさしく準備してきたピックをいかんなく発揮したV3のドラフトが輝いたと言えるでしょう。
2.Game4
個人的にはこのGame4が一番白熱したドラフトだったと思います。
1-2のビハインド、優勝までに逆リーチをかけられた状態でこのGame4を迎えたV3は、ドラフトの内容を大きく変えてきました。
(1)ファーストバンフェーズ
①DetonatioN FocusMe
Game1と同じくAce選手のガリオ、Raina選手のセトをバン。
DFMはGame1をレッドサイドで迎えたため、OPチャンプのケイトリンを残る1枠で消していましたが、今回はブルーサイドなのでバン不要。
レッドサイドのV3がバンしなければファーストピックで取れるため、代わりに1ゲーム目を決定付けたサイオンをバンします。
②V3 Esports
対するV3はCeros選手のハイマーディンガーバンは変わらないものの、Game2にオープンした結果暴れられてしまったGaeng選手のレオナ、そしてGame1からGame3まで終始エンゲージ・カウンターエンゲージの面でDFMにユーティリティをもたらし続けていたCeros選手のニーコをバンします。
これによりOPチャンプのケイトリンは開けてしまいますが、一方でGame1からGame3まで終始ドラフトのバン枠を占有し続けていたレネクトンを同時に開けられるというメリットも手に入れました。
(2)ファーストローテーション
DFMは当然OPチャンプのケイトリンをピック。
対するV3は、敢えてオープンにしていたレネクトンをピック。前述の通りケイトリンとレネクトンを同時にオープンしたのはV3の作戦で、DFMがレネクトンを取ればこれ幸いとOPチャンプのケイトリンをピックし、DFMがケイトリンを取ればレネクトンを取る腹積もりでした。
ここのポイントは、V3としてDFMがファーストローテーションの残り2ピックでナーのピックを誘っていること。
以下、少しややこしいですが、V3としては、DFMに2,3ピック目のいずれかでニダリー(Bugi選手の得意チャンプ、かつレネクトンとの相性が非常に良い)のピックをほぼ強制しています。
よって、残り1枠にナーを使わせてしまえば、返しにリリア(Bugi選手ならエリスでも良いかもしれません)をピックし、次いでセカンドバンフェーズでケイトリンと相性の良いモルガナ、エンゲージの要となるラカンをバン、更には4ピック目でノーチラスを取り上げてしまえば、DFMにバードのピックを強制し、かつラストピックでMidのCeros選手にカウンターを当てるという道筋を描ける寸法です。
しかしDFMもさるもの。ここでのナーのピックはドラフト上の不利を背負うことにつながるため、Midを先出しでピック。おそらくここでピックしたかったのはニーコでしょうが、ファーストバンフェーズでバンされているためやむなくアジールに。
対するV3はルブランよりもリスクが低く、またAce選手の得意チャンプであるゾーイをピックしました。
(3)セカンドバンフェーズ
①DetonatioN FocusMe
DFMはBugi選手の得意なキャリー系ジャングラーであるイブリン、そして、モルガナをバンされたことから、Bot Duoの安定性確保のためにキルポテンシャルの高いブリッツクランクをバンします。
②V3 Esports
対するV3は困ったことになりました。DFMがMid先出しのデメリットと引き換えにTopレーンのピックを隠したことで、ケイトリンと非常に相性の良いモルガナ、そしてレネクトンがレーン戦でドミネートしにくいボリベア、ナーの3体のうち少なくとも1体をバン漏れさせてしまうことが確定したのです。
V3側がまだMidをピックしていなければ、レネクトンをMidに逃がして(Ace選手はレネクトンを使えます)のドラフトも考えられましたが、あいにく既にゾーイで確定済。
緊急手段としては、ボリベアとナーをバンし、モルガナを自分たちでピックするという方法もありますが、アッシュ-モルガナではレーン戦でのキルプレッシャーがそれほど強くなくDFMのBot Duoに対抗しづらい。
結果としてV3はモルガナとボリベアをバンし、泣く泣くDFMへとナーを明け渡すこととなりました。
(4)セカンドローテーション
セカンドローテーションではV3がGame1,Game2に倣ってリリアをピック。
対するDFMはSupの選択肢としてバード、ラカン、ノーチラスの3体が候補に挙がるものの、V3のキャリーであるゾーイとアッシュに対するプレッシャーが大きく、かつケイトリンとの相性が良い(Ultで停止している足元にケイトリンの罠を設置することができる)バードをピック。
更に、満を持してEviの得意チャンプ、ナーをピックしました。
対するV3はラストピックにRainaの得意なフックチャンプであり、フロントラインを形成できるノーチラスをピックしました。
3.Game5
BO5最後のゲーム。V3がSengoku Gaming戦とFinals Game1で仕込んでいた布石が、遂に花開きます。
(1)ファーストバンフェーズ
①V3 Esports
V3はCeros選手のハイマーディンガー、ニーコに加え、レネクトンをバン。
同サイドでのゲームだったGame1、Game3ではニーコに代えてレオナをバンし、ファーストピックでパンテオンを取ることで、序盤からのプレッシャー、構成とドラフトの柔軟性を確保していました(Game1の解説を参照)が、そのドラフトで挑戦したGame3に敗れたこと、及びCeros選手のニーコを止めることを優先し、バンを変更したのでしょう。
②DetonatioN FocusMe
DFMは同サイドのGame1、Game3と変わらずAce選手のガリオ、Raina選手のセト、OPチャンプのケイトリンをバン。
(2)ファーストローテーション
レオナを開けたV3はファーストピックでレオナを選択。ここで開けてしまうとDFMにみすみす渡すこととなるため、やむなしのピック。(Raina選手はSummerでのピック回数ゼロのため、おそらくチームとしてもあまり好きでないのでしょう)
対するDFMはBugi選手の影響力を削ぐためのニダリー、そしてセナよりも序盤のキルプレッシャーが高いジンを選択。
それを見たV3は、Game1で良いイメージがあり、1人で強固なフロントラインとファーストエンゲージを兼ねられるサイオンに加え、先出しとなるMidにはAce選手の得意チャンプであるゾーイを選択。
DFMはファーストローテーションのラストピックに、ゾーイと対峙しつつも(Game1の反省を踏まえて)レイトゲームでサイオンを溶かすことができるアジールをピックしました。
(3)セカンドバンフェーズ
①V3 Esports
V3は徹底したGaeng封じに走ります。DFMにとってフレックスピックであり、Supportとして運用した場合序盤からアグレッシブなレーン戦が展開できるパンテオンをバン。
そしてGame5に来て初めてバードをバン。これまでは徹底してバードのピックをDFMに強制するドラフトを展開してきたV3ですが、Game5だけは事情が違います。自分たちでレオナをピック出来ているのです。
少しややこしい話になりますが、このパンテオンをバンした時点におけるDFMの有力なSup候補を見てみると、バード・ノーチラス・ラカンの3体。
しかし、ノーチラスではレオナとサイオンという強固なフロントライン2枚を乗り越えてV3のキャリーたるゾーイとアフェリオスへのエンゲージが難しいため、残るはバードとラカンの2体に限られます。
であれば、レオナで有利を取れるラカンを残すことでゲームを優位に進めることができるという考えで、V3は敢えてGame5だけバードをバンし、ラカンを強制したのでした。
②DetonatioN FocusMe
対するDFMは、Bugi選手のピックをリリアとにらんで徹底したArcher選手潰しを狙います。
Archer選手が得意とするアッシュ・カリスタというTierの高いADCをバンし、ゲーム内での影響力を削ぐ狙いでしたが、しかし彼には切り札がありました。
(4)セカンドローテーション
DFMはBotレーンでのキルプレッシャーを活かすため、味方を守ることのできるシェンをTopでピック。
対するV3はリリア、そしてアフェリオスをピックしました。
このアフェリオスピックによって、V3がSengoku Gaming戦とGame1で撒いていた布石、スワップ戦術が強烈に匂い立ちました。
詳しくない方のために説明すると、スワップ戦術とは通常ゲーム開始直後からBotレーンに送るADCとSupをTopレーンに送り込む作戦です。
ADC&Sup vs Topの1v2を強制することで、まさにアフェリオスのような序盤が弱いタイプのADCがレーン戦をスキップでき、安全にスケールできるようになるというのが長所です。
しかし、スワップ戦術を採用する際に注意すべきはTopレーンとBotレーンのタワーの固さの違い。
Topレーンのタワーはゲーム内時間が5分経過するまであらゆるダメージを半分にする効果を持っているため、互いにタワーを殴り合った場合、スワップしていない方のチームがタワーのプレートボーナスで優位に立つことになります。
そのため、スワップにあたっては相手ADCのタワーシージ能力の強弱が非常に重要になるのですが、DFMがピックしていたのはまさにタワーシージ能力が弱いジン。だからこそスワップ戦術が成立するのです。
そしてDFMが最後にピックしたSup、それはラカン。
レオナというカウンター相手でもピックせざるを得ない、V3に誘導された、苦渋のピックでした。
この最終ゲーム、ここまで周到に準備を重ねたV3は見事にゲーム内できっちりスワップ戦術を成功させ、アフェリオスに安全にゴールドをかき集めました。
そしてゲーム内時間で20分を前にアフェリオスにインフィニティエッジ、ルナーンハリケーンを完成させ、見事にFinals優勝を決めたのでした。
4.おわりに
いかがだったでしょうか。
Finalsともあって、V3はRaina選手のパンテオン、Paz選手のサイオン、(今回紹介しきれませんでしたが)Ace選手のオリアナ等、様々な秘策を準備してきました。
それらを裏に隠しながら、SONコーチとKazuコーチの間で繰り広げられた見えない刃の応酬。
そのすごさの一端だけでも、この記事を通して伝わればとても嬉しいです。
(文:あきのあまき)