あきののろるにっき

League of Legends(LoL)に関するさまざまなことを記事にしていきます。 twitterは@AkinoAmaki_LoL

【あきののろるにっき#36】ゲイルフォースの「余計なもの」と「足りないもの」

本日公開されたパッチノート10.23。その中でひときわ私の目を引いたのは「ゲイルフォース」だった。

このアイテムは明らかに未完成である。

余計なものがある。それは発動効果のブリンクだ。

そして足りていない。それは「このアイテムのバックストーリー」という部品だ。

そう思うに至った経緯と理由、そしてその解決案を書き記す。

 

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パッチノート10.23より

 

前置き

先に言っておくと、この記事ではパッチ10.23のゲームバランス調整については一切言及しない。

プレシーズンとはそもそもシーズン中には行えないような大規模な変更を行い、その影響をじっくりと見るものなのだから、現時点でのゲームバランスやアイテムパワーを見て「Riotはゲームバランス調整がヘタ」というのは筋違いだ。それに、昨今のRiotの調整に哲学が感じられないのは既に周知の事実だ。

また、この記事は、LoLというゲームを「様々な背景を持ったチャンピオンたちが戦うゲーム」という認識を持たない人には共感されないだろう。

この記事で言及するのは、LoLというゲームの根底にある「主役」のチャンピオンと「脇役」であるアイテムの関係性の話だ。この観点を具体化し、ゲイルフォースというアイテムに付いている「余計なもの」と「足りないもの」の話をしている。

そしてそれらを「余計なもの」「足りないもの」でなくするためにはどうすればよいかを考察する。

 

チャンピオンは3つの要素で差別化されている

私は「チャンピオンの差別化」という観点において、チャンピオンという存在が大まかに以下の3つの要素でできていると考えている。

それは「基礎ステータス」「チャンピオンのバックグラウンド」「そのチャンピオンらしさを構成するゲーム内要素」の3つだ。

このうち、基礎ステータス(HP、マナ、攻撃力、魔力……)については言及すべき要素が小さい。一部の例外(マナを持たなかったり、代わりに「気」を持っていたり)を除けば全チャンピオンに共通する要素で、役割(ファイターやメイジ、ADCなど)の中で細かな差別化要因になりにくいためだ。

チャンピオンのバックグラウンド(背景ストーリーや見た目などの設定)についてはチャンピオンの差別化要因として重要だが、ゲーム内の事柄をメインに話すこの記事においては敢えて記載を省きたい。

本記事のメインは3つ目の「そのチャンピオンらしさを構成するゲーム内要素」だ。これについては、大きく分けて以下の2つに分けられる。

(1)固有の「強み」による「そのチャンピオンらしさ」

これは分かりやすいだろう。

シェンは「均衡の守人」の長として、物質世界と霊的領域を行き来する。だから彼は世界を渡り、味方の元へ瞬間移動することができる。

ラカンはロトラン部族きってのバトルダンサーで、彼のダンスに心を奪われない者はいない。だから彼はアルティメットスキルで走り周り、触れたもの全てをチャーム状態にする。

ニーコはカメレオンのヴァスタヤだ。だから彼女はパッシブスキルで味方の誰にでも変身することができる。

これらはそれぞれチャンピオン固有の「強み」だ。この「強み」こそが、彼らを彼らたらしめている。

(2)固有の「弱み」による「そのチャンピオンらしさ」

キャラクターというのはその「強み」だけでアイデンティティを主張するのではない。固有の「強み」を得た代わりに付加された弱点も、そのチャンピオンらしさである。

ジンクスはそのクレイジーな性格通り、一度キルを得られれば爆発的な移動スピードで走り出し次々に獲物を食らっていく。しかし最初の1キルを得られずテンションがダダ下がった彼女は、ブリンクを持たないただのおさげ髪だ。

アカリは主なき暗殺者だ。近づいては離れ、煙幕の中に忍び、スキルと通常攻撃で敵に死をもたらす彼女も、煙幕の外で一度捕まってしまえば脆くも倒れ伏す。

ノーチラスは不沈艦の如き耐久力とシールド、そして豊富なCCを持つ。だが、彼だけではどう頑張ってもダメージ不足だ。

 

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キルの取れなかったジンクスはただのおさげ

 

オッドアイの悲劇

ところで、過去に読んだとある本に「ライトノベル小説において、単なるオッドアイのキャラは許されない」とあった。これは、大意において「キャラクターに特徴を持たせる場合はその理由も備えていなければならない」ということだ。

オッドアイなら右目からビームが出るのかもしれないし、左目が義眼でその中にICチップが隠されているのかもしれない。必ず何かしらの理由は備えようということなのだが、この点においてLoLはとてもよく出来ている。

アーゴットが人間なのに6本足なのは力を求めて自ら改造したからであるし、オレリオン・ソルの周りを星が周回しているのは彼自身が全ての星を創り出した存在だからだ。

単なる石像であったはずのガリオが意思を持ったのはペトリサイト製の身体におびただしい量の魔法を浴びたからであるし、スウェインの左手が紅いのはイレリアに斬り落とされた後に闇の力で復活させたからだ。皆にちゃんとストーリーがある。

翻って、アイテムには?

イオニアブーツにアイオニアの風を感じ、(新たに追加された)ターボケミタンクにいかがわしく危険なゾウンの「白い靄」を思い浮かべるかもしれない。しかし、そこ止まりだ。一部の例外を除き、アイテムにストーリーらしいストーリーは用意されていないのだ。

 

LoLのメインディッシュはチャンピオンである

それも当然だ。LoLのメインはあくまでチャンピオンなのだから。このゲームはチャンピオンの「らしさ」があってこそなのだ。

Riotも当然それを認識していて、チャンピオンに「強み」と「弱み」を持たせることを昨年から目標にしている。

jp.leagueoflegends.com

 


アイテムがチャンピオンの強みを伸ばすのは「そのチャンピオンらしさ」の強調としてとても良いことだ。弱みを補うのも良いだろう。しかし、弱みを「無効化」することがあってはならない。それは、ストーリーを持たない脇役であるアイテムが、メインディッシュであるチャンピオンの「らしさ」の一部を消し去ることに等しいのだから。

 

ゲイルフォースに付いている「余計なもの」

ここでゲイルフォースのアイテム説明を見てみよう。

「ゲイルフォース」をマークスマンチャンピオンに持たせれば、強力なスキルショットを避けたり、体力が低下した対象に強烈なトドメの一撃を喰らわせることができます。

基本ステータス
トータルコスト 3400ゴールド
ビルドパス ヌーンクィヴァー + アジリティ クローク + ピッケル + 625ゴールド
攻撃力 55
攻撃速度 20%
クリティカル率 20%
効果
クラウドバースト(発動効果) 指定方向にダッシュして、目標地点の近くにいる最も体力の低い敵に3発の飛翔物を発射する(チャンピオン優先)。180~315(チャンピオンレベル10~18)(+増加攻撃力の45%)の魔法ダメージを与える。体力が低下した対象には、最大50%までダメージが増加する(クールダウン90秒)
ミシック 他のすべてのレジェンダリーアイテムに移動速度3%を付与する

 

マークスマンの中には「ブリンクを持たない」ことが明確な「弱み」となっているチャンピオン達がいる。例えば前述したジンクスだ。ヴァルスも良い例だろう。彼はウェーブクリア・エンゲージ・DPSと豊富な強みを持つが、ただ一つ、ブリンクを持たないという「弱み」を持っている。ブリンクの有無というのは、それだけマークスマンにとって重要な特徴なのだ。

それを、ストーリーを持たない存在であるアイテムがたった一つで解消させる?これは明確な弱みの「無効化」であって、マークスマン向けのアイテムとして不適切だ。*1

 

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パッチノート10.23より

解決策の提案

ではどうすれば、ゲイルフォースのブリンクという「余計なもの」を余計なものでなくせるのか。

完全な解決策にはドクター・ムンドがやるような外科的手法(婉曲表現)が手っ取り早いが、それはあまりにもったいないし、アイテム自体に罪があるわけではない。

問題の根幹を「アイテムのストーリー性が薄いこと」、つまりアイテムがあまりに「脇役」であることだと捉えれば、話はシンプル。アイテムに今より少しだけスポットライトを浴びせればよいのだ。

例えばアイテムにストーリーを持たせることである程度解決を図ることができるかもしれない。

ゲイルフォースに「エズリアルがシュリーマの宝物庫から見つけ出した、古代シュリーマにおける伝説的な戦女王セタカの残した装具」というストーリーがあればどうか。このストーリーの詳細版をエズリアルのユニバースに載せるのだ。

そうすれば、ジンクスがサモナーズリフトで突然相手に向かってブリンクしたとしても「単なるアイテムによるブリンク」ではなく「古代シュリーマから甦った幻の装具のパワーによるブリンク」となる。単なるオッドアイではなく、右目からビームが出るようにするのだ。

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幸い、既に目からビームを出す先輩がいる

 

終わりに

アイテムによるチャンピオンの弱みの「補填」と「無効化」の境界はどこにあるのか?

この境界は主観的であるがゆえ曖昧で、人によって異なる。しかし、私はゲイルフォースのブリンクは明らかにやりすぎだと思った。(但し、他のアイテムについては「強み」を伸ばす方向のものが多いと認識していることは付記しておく)

こればかりは運を天に(拳に?)任せるしかないが、私の主観とRiotの感覚のズレが今後これ以上広がらないことを祈りつつ、今回はここで筆を置く。


(文:あきのあまき)

*1:じゃあサッシュは?CCに一度捕まれば終わりというADCの「弱み」を無効化するだろうという議論が出てきそうだ。その点は「ストーリー以外の観点におけるアイテムの個性」という別の論点になるので、ここは敢えて触れずにおく。