あきののろるにっき

League of Legends(LoL)に関するさまざまなことを記事にしていきます。 twitterは@AkinoAmaki_LoL

【あきののろるにっき#37】ノクサスを偉大な国にするために知っておきたいのは地政学

スウェイン元帥がどこぞの大統領よろしく「ノクサスを再び偉大な国に(Make Noxus Great Again.)」と言ったかは定かではない。

だが、ノクサスを世界最強の国家にしたいのであれば、今の外交政策は誤りだ。

地政学の観点から見た「本当に実施すべき外交政策」を書き記す。

 

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ノクサスの中枢 イモータル・バスティオンの威容(ユニバース公式より)

 

ノクサスの現状

LoLの世界観をあまり知らない人向けに、まずはノクサスの簡単な紹介を行おう。


【ノクサスのユニバースより】

「強大な帝国ノクサスは他国から恐怖の目で見られている。国境の外にいる者にとって帝国は残酷な拡張主義を掲げる脅威であるが、その軍国主義の内側を覗けば、武勇と才能に敬意を払い、それを育てようとする、類稀な開かれた社会を目にすることになる。

現在の帝国の首都である古代都市は、かつて残忍で野蛮な部族であったノクシー族によって占領されていた。四面楚歌にも等しいその状況で、彼らは積極的に外敵に戦いを挑むようになり、年々その領土を拡張してきた。この生存闘争が、ノクサス人を何よりも力を重んじる誇り高き民族へと変えた。ここでは様々な形で、力ある者が日の目を見ることができる。

社会的な地位や出自、出身、富などは関係なく、その適性を示すことさえできれば、誰であろうとノクサスの中で権力と人々の尊敬を手にすることができるのである。魔法を使いこなせる者は特に高く評価され、そうした人材の確保にも余念がない。帝国の繁栄のためにその特殊な才能を鍛え上げて利用するのだ。

しかし、このような実力主義的な理念とは裏腹に、古くから続く貴族たちもいまだに相当な権力を振るっている…ノクサスにとって最大の脅威は、国外ではなく国内から現れると恐れる者たちがいるのも事実である。

 

【探索&発見 ルーンテラより】


ノクサスは勢力圏拡大を是とする攻撃的な帝国で、国境を広げるべく常に新しい領土を虎視眈々と狙っている。だがいつも血が流されるとは限らない。事実、数多くの国家が帝国領となることで安定と安全を確保すべく、元帥の前に跪いてきた。だが一方で、ノクサスの支配を受け入れない者は、容赦なく叩き潰される。


ノクサスは領土を拡大して隣接する文化や都市を打ち負かすと、征服した人々に、ノクサスに忠誠を誓って己の実力のみで評価されることを受け入れるか、破滅させられるかの選択を与える。これはごまかしや計略ではない。ノクサス人は必ず約束を守り、征服者たちの生き方を受け入れた者の多くが、以前よりも豊かな生活を得られるようになる。しかし、跪くことを拒絶した者は、容赦なく叩き潰される。

 

つまり、まとめるとこうだ。

  • ノクサスは大昔から他国に戦いを挑むことで国力を蓄えてきた
  • 他国の文化を破壊し、ノクサス流に従わせる(※但し、一部では例外もある。気になる人はREALMS OF RUNETERRAのノクサスの項を参照)
  • そういった経緯から、実力主義を標榜している
  • 一方で、国内の貴族達も権威主義的な力を持っている

そんなノクサスは、ヴァロラン大陸の北東部に位置しており、加えて侵攻拠点・貿易都市としてアイオニアの一部とシュリーマの一部にもその手を伸ばしている

主な周辺諸国はアイオニア、デマーシア、フレヨルド、シュリーマ、ピルトーヴァー&ゾウンなどだ。

 

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赤い着色部がノクサスの領土(ユニバース公式より)


ノクサスは亡国に向かう

現在、主にノクサスの外交政策を決定しているのはスウェインである。彼は皇帝ボラム・ダークウィルから帝国を簒奪した後、国家の決定機関としてトリファリックスという三頭体制を敷いた。

彼がノクサスの強さの源だと考えている「予見」「力」「狡智」を体現する者を据えて国家を統治しているのだ。

その頭とは、それぞれ

予見:スウェイン

力 :ダリウス

狡智:不明(ルブランと言われているが、明かされていない)

であり、3名のうち2名が賛成した内容については例外なく国家方針として採用される。

そして、その結果として遥か過去から続くノクサスの拡張主義(=世界の征服を目指す)は今も継続されているのだ。

この拡張主義、これまでは国力に寄与したのだろう。しかしこのままではこの方針こそが国を亡ぼす。某格闘漫画では猛毒を受けた主人公に更に猛毒を浴びせ、「毒が裏返ったァッッ!」などと喜んでいたが、逆に過ぎたる薬が毒となることもあるのだ。


攻めすぎるノクサス

本当は1,000年ほど前から存在している国なので星の数の程侵攻の履歴があるのだが、ここは最近に絞ってどのような侵攻を行ったのか見てみよう。

 

(1)アイオニア

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薄青い着色部がアイオニアの領土(ユニバース公式より)


これが一番有名だろう。それまでは平和主義的な共同体であったアイオニアに軍事力を以て攻め入った。

これによりその運命が変わったチャンピオンも多い。

例えばカルマ。彼女は「アイオニアの魂」として平和的な存在であることを求められていたが、ノクサスの戦艦に向けて魔力を解き放ち打ち滅ぼしたことで僧侶たちの非難を浴びた。

例えばアカリ。ノクサスの侵攻に対し忍耐を求めるシェンに反発した彼女は「均衡の守人」を脱退し、身に着けた暗殺術でアイオニアを守ることを決心した。

スウェイン自身もそうだろう。それまでは誰もが羨む出世街道をひた走っていたかれも、アイオニア侵攻の際に「プラシディウムの戦い」でイレリアに敗北。左腕と膝を破壊され、軍をも追放された。(その数年後、ノクサス中枢に巣食う闇の力を手にしてクーデターを起こし、華麗な復活を遂げるのだが)

 

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スウェインとイレリアが戦いを繰り広げたナヴォリのプラシディウム(ユニバース公式より)

(2)デマーシア

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白い着色部がデマーシアの領土(ユニバース公式より)


ノクサスとデマーシア犬猿の仲であることは有名である。

ノクサスの拡張主義に対しデマーシアが応戦する形で繰り広げられるこの戦争は、サイオンがその死と引き換えにジャーヴァンⅣ世の曽祖父であるジャーヴァンⅠ世を殺害したり、度重なるメイジによる魔法攻撃がガリオを生み出すなど、様々なチャンピオンに影響を与えている。

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マーシアの武器。ルーン鋼と呼ばれる金属が使われており、ある程度魔法を防ぐ効果がある。(ユニバース公式より)



(3)シュリーマ

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黄色の着色部がシュリーマの領土(ユニバース公式より)

近年で最も成功したノクサスの侵攻はシュリーマだろう。

中央が砂漠地帯で、また女王レク=サイ*1率いるゼル=サイたちが跋扈するサイ・カリークも存在するここは、主に沿岸部と河川沿い*2が主要な都市となっている。

中でもノクサスは北シュリーマの各都市を服従させ、ノクサス軍の庇護を与える代わりに食料等の必需品を上納させている。

(4)フレヨルド

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青い着色部がフレヨルドの領土(ユニバース公式より)

意外と知られていない事実だが、ノクサスはフレヨルドにも侵攻している。

ダリウスは一度フレヨルドの部族に捕縛されたことがあるし、セジュアニが駆る猪のブリストルはもともとノクサスの食糧だったのを彼女を連れだしたものだ。

(5)ピルトーヴァー&ゾウン

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ピルトーヴァー&ゾウンの領土……というよりも、都市(ユニバース公式より)


抜け目ないノクサスは当然ピルトーヴァー&ゾウンも狙っている。現状、侵攻は行っていないものの、進歩の都市たるピルトーヴァーに偵察兵を送り込んで虎視眈々と侵攻の機会を狙っている。詳しく知りたい人は「進歩の日」を読もう。

 

 

さて、ここまで見てきたように、ノクサスは隣国を全面的に敵対視する外交方針を採用している。

しかしこの方針は非常に危険だ。負けるおそれがあるからではない。勝つおそれがあるからだ。

 

拡張主義国家の最期は大体同じ

現実世界に目を向けてみると、古今東西において拡張主義国家の末路は大体同じだ。すなわち、

  • 政治的混乱による内部分裂・反乱
  • 拡張により複数のイデオロギー少数民族等)を抱えることによる内部分裂・反乱
  • 拡張によりかかる国家維持コストに経済体制が追いつかないこと等による経済疲弊に伴う内部分裂・反乱

のいずれかによる弱体化である。

例えばサラセン帝国(高校を卒業した人なら懐かしいかもしれない)。この帝国は現在で言うところの西はモロッコから東はパキスタンまで支配した大帝国であったが、次第に地方が自立し始めて弱体化、最後はモンゴル帝国によってとどめを刺された。

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サラセン帝国の最大版図(link

ここでノクサスに目を向けてみよう。ノクサスに上記のような内部分裂・反乱のリスクはあるだろうか。

  • 政治的混乱:黒薔薇団の存在&そして貴族が権力を握っている
  • 複数のイデオロギー:多くの国・部族を属国としている
  • 国家維持コスト:侵攻失敗による軍費の増大

もしこれがビンゴなら、既に景品を手に入れているだろう。

 

ノクサスの内部は既に軋みを上げ始めている

ルブランが率いる黒薔薇団は政治的混乱の元凶として今も暗躍しているし、イデオロギーの面でもノクサスの統治法がマイナスに働いている。つまり、侵略の際に服従を示した小国は国家制度をそのまま残して属国化していることで、「ノクサス市民」よりも元々の国家(または部族)の民であるという帰属意識の方が強くなりやすいのだ。

また、侵攻失敗による軍費の増大も無視できない。通常、侵攻により発生する軍費は侵攻先の略奪や属国化による経済搾取等で賄うが、侵攻に失敗した場合はその補償が受けられない。ノクサスの場合、属国化した国々に侵攻を肩代わりさせている部分があるためすぐに中央政権が疲弊するということは考えにくいが、そのダメージと不満は着実に属国内に溜まっている。

近頃で言えば、実際にヴァルディスという地方がノクサスから離反した例もある(だが、スウェインによって復活したサイオンにより鎮圧された)。


地政学における「山」と「海」の役割

前置きが非常に長くなったが、ここでようやく地政学の話に移る。

地政学についての説明は、佐藤優『大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす』(2016年 NHK出版新書)が非常にわかりやすいため引用する。

地理を学ぶ意義は、まさに先述のとおり「長い時間が経っても変化しない」ということに尽きます。(中略)たかだか数百年で、日本列島がユーラシア大陸とつながったりはしないし、アメリカ大陸が分裂することもない。したがって地理的な環境は、国家にとって所与の条件として考慮されることになります。(中略)このような地理的思考を、国家戦略に活用したものが地政学と呼ばれるものです。

 

この地政学の文脈で、ロシアにおけるマルクス主義の父と呼ばれるゲオルギー・プレハーノフの有名な言葉として「海と川は人間を接近させるが、山脈は人間を分離させる」という言葉がある。

山脈が人間を分離させるというのは分かりやすいだろう。古来より、軍による山越えの困難さから山脈が事実上の国境となったケースは数多くある。

海が人間を接近させるというのは、国が海(つまり航路)によって繋がれることを意味している。ビルジウォーターは言うに及ばす、アイオニアやノクサス、シュリーマ等にも港町があることから、ルーンテラ世界においてもある程度海によるネットワークは機能しているだろう。よって、ノクサスは海によって世界のほとんどと繋がっていると言える。(不凍港があるか怪しいフレヨルドや、繋がっていても半分意味をなさないシャドウアイルは除く)

この場合、通常は「海からの侵略」を警戒する必要があるが、ノクサスは例外だろう。というのも、おそらく全国家で唯一軍艦を所持する等、海軍力においては他を凌いでいるからだ。(まぁその軍艦もカルマの魔法一発で破壊されてしまった事実がある以上、果たして圧倒的な差につながるかは疑問だが)

となれば、考えるべきは「山」だ。前述の通り「山」は国家と国家を分断するものだから、逆に「山」の無いところを考えれば良い。ここでルーンテラ世界の地図を見てみよう。すると、ほとんどの周囲を「山」か「海」で囲われているにもかかわらず、デマーシアとの間だけはほとんど遮るものが無いことに気づく。

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マーシアとの間にはほとんど「山」が無い


ノクサスは今後どう動くべきか:緩衝地帯という考え方

だからと言って「ではデマーシアを攻めよう」というのは危険な考えだ。安易な戦費の浪費は亡国に繋がりうるし、そもそもデマーシアには少数ながら精強な軍団が存在する。たとえデマーシアが肥沃な大地を擁する魅力的な侵略先だとしても、その天秤のもう片方には重大なリスクが載っていることを忘れてはならない。

ここでノクサスに導入したいのが「緩衝地帯」という考え方だ。緩衝地帯とは、現実世界においてはロシア等が積極的に考慮している概念で、「自国と敵対国の間に『自国ではないが、いつでも自国の軍が移動できる地帯』を作ることで安全保障を実現する」という考え方のこと。

何故この概念がロシアと親和的であるかというと、ロシアが平原の国だからだ。平原という事は「山」が無い、すなわちいつでも攻め込まれるリスクがあるということで、それを避けるためには周辺を親ロシア政権の国々で取り囲めばよいという理屈につながるというわけだ。(現実は、ソ連の崩壊と共にこの「緩衝地帯」となる親ロシア政権は次々と西欧に取り込まれ、かつてほどのものではなくなってしまった。それでもプーチン大統領は強くこの概念を推し進めている。昨今で言えば、2014年に起きたウクライナにおける紛争も「緩衝地帯」であるウクライナに親EU政権が樹立することを嫌ったという側面がある)

ここで再びルーンテラ世界の地図を眺めてみると、ノクサスの中心部は殆ど平原であることに気づく。つまり、ノクサスは「緩衝地帯」の概念と相性が良いのだ。

更に都合の良いことに、ノクサスは侵略した小国を服従化させる際、それまでの王族を領主として残すなど国としての体制をある程度残したままとしている(事実、アイアンスパイク山脈のデルバーホールドではヴァル=ロカン族が領主となり、ノクサスに良質な鉱石を上納している)。であれば、そのままその領地を再度国家として独立させればよいのだ。但し、親ノクサスの国としてだが。

この概念の導入によってノクサスが得られるメリットは「対外侵攻の停止による内政への注力」だ。上述の通り、拡張しすぎた国家は維持コストと内乱リスクの増大を招く。かれこれ1,000年もの間戦争し続けてきた国が今更という感もあるが、逆に言えば、従来は皇帝による独裁によってコントロールの利かなかった国家の膨張を、トリファリックスの三頭体制が実現した今こそ止めるチャンスとも言える。

 

終わりに

何度も繰り返した通り、ノクサスは膨張しすぎた。これまでは小国の併呑であったこともあり順調に進んできたのだろうが、ここからは精強無比のデマーシア、防衛本能に目覚めたアイオニア、皇帝の復活したシュリーマ、圧倒的な技術力と科学力を併せ持ったピルトーヴァー&ゾウンと強敵揃いである。これ以上の戦線拡大はノクサスを含めて誰の得にもならないだろう。

混乱を望むであろう「狡智」は頑として反対するかもしれないが、そこはトリファリックス。未来を「予見」するスウェインと、彼を理解し尊敬しているダリウスの2人が揃えば止められないものはない。ノクサスの未来を信じ、これまでの1,000年に終止符を打とう。

 

【参考文献】

佐藤優『大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす』(2016年 NHK出版新書)

www.amazon.co.jp

 

(文:あきのあまき)

*1:そう、レク=サイは女の子だ

*2:砂漠に河川とは不思議な話だが、皇帝アジールの復活と共に真水がとめどなくあふれ始めたのだ