【あきののろるにっき #4】雀の先生
「経験は最高の教師」。
私はこの言葉を先生から学んだわ。
そしてそれ以来、ずっと心の一番真ん中にこの言葉を置いている。
荒ぶる私の魔力を制御する術を教えてくれた先生。
共に過ごした日々はそう長くはなかったけれど、それでもたくさんの事を教えてくれた、一陣の風のような人だった。
この間、久しぶりにあの人と出会ったわ。
私が旅路に出て以来の顔合わせだったのだし、勧めに従ってフレヨルドに行った際の体験談とかシュリーマで巻き込まれた大騒動とか沢山話したいことはあったけど、あいにく彼は少し離れた場所で、ピルトーヴァーから来た全身機械ずくめの人間(人間って呼んでいいのかしら……?)と斬り結んでいたからチャンスは全く無かった。
せっかくのことなんだから、向こうから話しかけに来てくれても良かったのに……
そういえば、先生に確認しなきゃいけない事があったのを思い出した。
ちょうど機械人間と戦っていたとき、先生は不意に近くの森の中に入っていったのよね。
そしたら、さっきまでいたはずの鳥たちが無残に狩られていて。
まるで最初から知っていたかのような目でそれを確認したあの人は、迷うことなく更に奥深くまで進んで行って、遂には不審な修行僧を発見しちゃった。(これって、部族に伝わる諺で言うところの「藪から石」ってやつよね?)
石壁の先に瞬間移動して逃げていく敵を、本当に風になった様なスピードで追いかけて行って、瞬く間に斬り倒したの。
何故気付いたのかって訊いたら「不穏な風を感じた」とか言っていたけど、風の魔力を感じ取れない私にはさっぱりよ。
なんとか大地の力で盗人の気配を感じ取る方法はないかしら?部族に戻った後、羊を盗もうとする輩にも対処できるかもしれないもの。
本当はそのあたりを戦いが終わった後にじっくり訊きたかったのだけど、結局この一件の後は先生と話すタイミングも無いまま撤退戦になってしまったのよね。次に教えを乞えるのは果たしていつになるのやら。
でもまあ、全然大丈夫よ。
私はちょっとやそっとじゃめげない主義だし、それに、まずは自分で挑まなければ何も学べないもの。
眼差しはいつも地平線に、そして両足は大地に置いて。たとえ躓いても、大地が受け止めてくれるわ。
この世界は誰か一人が紡ぐ糸ではなくて、私たち一人一人が織りなすタペストリー。そして、どんな大きなタペストリーも、始まりは一針からなのよ。
一歩一歩、一針一針。少しずつでも、自分の足と手で進んでいく事がきっと何よりも大切な事なのよ。
つまり、「経験は最高の教師」ってこと。もしかしたら私の先生よりも最高な、ね。
(LJL 2020 Spring Split Week4 Game5 BC vs CGAの1シーンより)