あきののろるにっき

League of Legends(LoL)に関するさまざまなことを記事にしていきます。 twitterは@AkinoAmaki_LoL

【G2 vs SKT感想】G2 Esportsという名の将棋棋士。"オブジェクトの価値の固定化"という呪縛。

こんにちは、あきのあまきです。

本日は、(少し日が開いてしまいましたが)先日行われたWCS2019準決勝 G2 vs SKT戦において私が感じた事柄を書き連ねていきたいと思います。

 

 

1.最初に結論

 G2 vs SKT戦を経て、私はLoLというゲームの「マクロの深み」が増したと感じました。

LoLの「『より遠い未来を正確に予測した者』『その予測を基に、流動するオブジェクトの価値を正確に判断できた者』が勝つゲーム」という側面が、このG2 vs SKT戦によって一層深化したと感じたのです。*1

本記事では、この深化について、将棋を引き合いにしながら解説していきたいと思います。*2

 

2.将棋というゲームのルール、そして「駒割」という概念

たいていの方はご存じかと思いますが、簡単に将棋のルールを説明します。

  • 将棋には、歩、香、桂、銀、金、角、飛、王の、役割が異なる8種の駒がある。*3
  • 王を取られたら負け。

簡単ですね。

そして将棋には、各駒の価値を点数化した「駒割(こまわり)」という概念があります。

この駒割の点数はプロ棋士でも意見が分かれるところのようですが、一つの例では

  • 歩:1点
  • 香:3点
  • 桂:4点
  • 銀:5点
  • 金:6点
  • 角:8点
  • 飛:10点
  • 王:99,999点(取られたら負けなので)

といった感じになるようです。

 

ところで、 将棋において「価値の変わらない」駒は取られたら勝ち負けが決まる王しかありません。その他の駒の価値はあくまで参考値であって、場面場面で大きく変化するのです。

この記事は将棋の解説ではないので詳細説明は避けますが、将棋では「飛(10点)では相手の王を取れないけど、金(6点)なら取れてゲームに勝てる」といった場面が頻出します。この場合、本来は10点もある飛の価値は限りなくゼロに、6点しかないはずの金の価値は10点以上になっていると言えます。

 

3.LoLというゲームへの、将棋の概念のあてはめ

さて、上述した将棋の概念、「駒割」をLoLのオブジェクトにあてはめるとどうなるでしょうか?実際の価値算定(点数)はともかく、おおよそ以下のような感じでしょう。

  • ウルフ:1点
  • グロンプ:1点

  ……

  • 赤バフ:3点
  • 青バフ:3点

  …… 

  • オーシャンドレイク:5点
  • クラウドドレイク:6点
  • インファーナルドレイク:7点
  • マウンテンドレイク:8点
  • アウタータワー(Top):9点
  • アウタータワー(Mid):10点

  ……

  • バロンナッシャー:15点
  • エルダードラゴン:18点
  ……
  • ネクサス:99,999点
LoLにおいて価値の変わらないもの(オブジェクト)はネクサスです。
(iGのJackeyLoveという、ウルフとネクサスを交換した熱い男も存在しますが……)
じゃあほかのオブジェクトは?将棋と同じで価値は流動的に変化します。時にはTopのアウタータワー(9点)を渡してでもクラウドドレイク(6点)が欲しいときがあるでしょう。*4
LoLにおいて、文字通り秒単位で流動するこの価値の算定はとても難しいことです。
 

4.オブジェクトの価値算定の難しさと対処の方法(価値の固定化)

LoLにおいてオブジェクトの価値算定を難しくしている主な原因は以下の3点だと考えています。
  • 価値算定に費やす時間が足りない
  • 価値算定という行為だけにリソースが割けない
  • 情報が不足している(LoLが"情報公開ゲーム"でない)
(1)価値算定に費やす時間が足りない
LoLのゲーム内ではすべての状況が刻一刻と変化していきます(敵味方の位置、視界状況、ミニオンの位置、ドラゴンの有無等々)。文字通り秒単位で変化する状況下では、価値算定の為の時間が全然足りません。
(2)価値算定という行為だけにリソースが割けない
ゲーム中、レーナーはレーン戦等、ジャングラーは中立クリープの処理や視界確保等を行っており、オブジェクトの価値算定だけを行っているわけではありません。他の作業をしながらオブジェクトの価値算定をするというのは、例えるなら数学の問題を解きながら将棋を指すようなもので、容易な事ではありません。
(3)情報が不足している(LoLが"情報公開ゲーム"でない)
常に相手の動きを全て把握できるわけでないため、価値算定のために必要な情報(相手がどう動くか?今どこにいるのか?等)が不足しがちになります。

 

上記の困難性に対処するため、プロチームはオブジェクトの価値を(彼我のチーム構成等を考慮に入れながら)事前にある程度固定化しておき、「優先すべきオブジェクト」を定め、ゲーム内でもプラン通り、常識通り遂行しようとします。*5

マクロなら世界一である(であった)SKTでさえ、昨日のG2 vs SKT戦を見る限りこの「呪縛」から完全には逃れられていないように感じました。*6

 

5.オブジェクトの価値算定におけるG2の特異性(未来視)

しかしG2は違いました。

オブジェクトの優先順位はある程度事前に定めつつも、ゲーム中に流動するオブジェクトの価値算定を的確に行い、「今本当に必要なオブジェクト(=ネクサスを取るために、今取れるオブジェクトの中で最も価値が高いもの)」の判断ができていました。

このG2とSKTの差が如実に表れた場面の一つが、Game1における「バロンとBotインヒビターの交換」だと思います。

まずは以下の動画をご覧ください。

clips.twitch.tv

場面はゲーム時間25:45。事前にG2のライズがBotのインヒビタータワーを大きく削ったことで、SKTはバロンを触らざるを得なくなります(触らなければG2のライズがBotのインヒビターまで攻略してしまい、最終的にバロンまでG2にとられてしまうため)。

このSKTの行動に対しG2が取った対応は「バロンファイト」ではなく「Botのインヒビター破壊」でした。

SKTは、この交換をまずまずの成果と感じたと思います。動画内でもRevolさんが仰っている通り、インナータワーを全て折ってしまえばグローバルゴールドとマッププレッシャーで差を付けることができ、SKT有利に運ぶのですから。「すぐ近くの未来」だけを見れば最善の行動だったでしょう。

しかしG2の考えは違いました。そして「SKTよりも更に遠くの未来」を見て動いていました。

G2は、バロンを取られたとしても

  • Topはライズがプッシュするのでタワーを折られない。ついでにライズのLv16のパワースパイクを得る(クレッドが護衛に付き、SKTの面々が寄ってきたとしてもクレッド・ライズ共にUltで脱出する)。
  • Botはスーパーミニオンが自動でレーンをプッシュするためタワーを折られない。
  • ゆえに、残ったメンバーでMidのタワー防衛に全力を注げばよい。
と考えていました。
 
そして結果として、SKTはバロンの効果時間中に約4,000ゴールドの有利を得たものの、オブジェクトの面ではさしたる有利を得られませんでした。

対するG2は、バロン交換で開けたBotインヒビターの風穴に(集団戦での完勝後に)なだれ込み、このゲームを勝ち取りました。

 

この様に、G2はオブジェクトの「流動的な」価値を、どのチームよりも正確に、さながら将棋のプロ棋士の如く遠い未来を予測することで算定し、SKT戦での勝利を収めたのです。

 

6.最後に

この記事では、「何故G2だけが(従来困難だと思われていた)『価値の固定化という呪縛』から逃れられたのか?」には触れられませんでした。時間が取れたタイミングで研究課題にするかもしれません。*7

さて、来シーズンはエレメンタルドレイク取得時にマップが変化する等、現在よりも更にオブジェクトの価値の流動性が高まると予想されます。

そんな中で、今や世界最高となったG2のマクロコントロールに対抗できるチームは出てくるのか?

今年のWCS決勝がまだ残っている今からでも、ワクワクが止まりません!

 

(文:あきのあまき)

*1:SKTがEDG相手にマクロで10,000ゴールド差をひっくり返した試合もあるので、「本当にこのゲームで深化した?」と言われると若干の不安も抱きつつ。

*2:確定完全情報ゲームである将棋とそうでないLoLを比較するのはどうかという検証は必要な気もしますが、とりあえず分かりやすさ(価値が異なるオブジェクト(駒)が多い・ルールを知っている人が比較的多い)優先で。

*3:玉や成駒もありますが、ここでは簡単のために。

*4:クラウドドレイクが3つ重なるときとかね。

*5:例えば、Topフィオラ、JGグラガス、Midルブラン、ADCエズリアル、Supラカンの構成であれば、放置しても生き残りやすいエズリアルを置いてフィオラを育てたいため、Topのタワーは優先すべき目標になるでしょう。

*6:ある意味、この呪縛からどれだけ自由になれるか(最も価値の高いオブジェクトを取るための下準備を仕込めるか)がマクロの強さの一端なんだろうなぁ。

*7:チームの内面に相当入り込む内容になる可能性が高いので、そもそも明らかになるのかも分かんないけど……