【あきののろるにっき#33】プレイインステージを貫いた閃光、PSG Talonの輝きとPCS地域の団結力
先日、プレイインのグループステージが終了した。
今年はコロナ禍の影響でベトナム地域の2チームが参加できず、結果として10チームが2グループ(グループA,グループB)に分かれて戦う変則方式だったが、両グループでタイブレークが発生する等、例年以上に熾烈を極めた争いとなったところだ。
LJLの代表として世界の舞台へ乗り込んだV3は、初戦にRainbow7(ラテンアメリカ)から勝ち星を奪う爪痕は残したものの、最終的には1勝4敗でグループステージ敗退が決定してしまった。
ただそんな中でも、ただ消極的にやられるばかりでなく、自分達からアイデアを出して積極的に仕掛けていく姿勢を最後まで忘れずに戦った点はしっかりと心に留めておくべきだろう。
選手へは、敢闘への感謝とねぎらいの言葉を伝えたい。
さて、上述した通り、今年のプレイイングループステージは波乱の幕開けとなった。
開幕前の前評判では上位独占が固いであろうと言われていた、メインリージョンから出場のTeam Liquid(北米)、MAD Lions(ヨーロッパ)、LGD Gaming(中国)。
そのうち、TLだけは(昨年のMSI準優勝の意地か)さすがの貫禄を見せてグループAの首位を守ったが、他の2チームは悲惨な幕開けとなってしまった。
まずは初日からLGDに黒星。2日目には調子が戻らないLGDに加えてMADまでマイナーリージョンに敗北。あわや両チームとも最下位、プレイイン落ちの寸前まで味わい、最終結果も両チームとも4位でのフィニッシュとなった。
これも「WCSの魔物」か、総じて多くのチームが安定したパフォーマンスを発揮しきれない4日間となったと言っていいだろう。
中でも、下馬評で「一番パフォーマンスが安定しないであろう」と思われていたのは、PCS(台湾・香港・マカオおよびベトナムを除く東南アジア地域)代表のPSG Talon。
なにせこのチーム、プレイインステージ中はメインロースター5人のうち最大で3人が急遽集められた助っ人で固められていたのだ。
しかしそんな危機的状況の中でもチームを立て直した彼らは前評判などどこ吹く風、グループBを1位抜けし、最速でグループステージへの切符を手にした。
今回は、このPSGに降りかかった災難とそれを救ったPCS地域の団結に目を向けてみたい。
【目次】
1.PSGに降りかかった災難
WCSへの出場権を獲得したPSGがコロナ禍で混乱する世界の中で受けた災難は、出場断念を余儀なくされたVCS(ベトナム)の2チームの次に悲惨なものだった。
具体的には、JGのRiver選手とMidのTank選手がコロナ禍に伴う自己隔離期間の都合によりプレイインステージへ参加が不可能となり、ADCのUnified選手も同様の理由でプレイインの2日目まで参加が不可能となったのだ。
(なお、River選手はまさに今年WCSに出場していたV3 Esportsにかつて所属し、2019年のSummerシーズンにJGを務めていた名プレイヤー(LJLではBabyという名前で登録)。2018年にはBowQen Blackbucksに所属しLJL CSから昇格戦に挑戦する等、LJLとのかかわりが深い選手だ)
これによりPSGは大きなロースター変更を余儀なくされた。
JG-Mid間やADC-Sup間の連携力が非常に重要なプロシーンにおいて、JG-Mid-ADCの3選手が抜けるという事実は非常に重い。連携力の弱体化は、将棋で言うところの「飛車落ち」に近いほど致命的だ。
2.PCS地域の団結
この受難を受け、PSGは以下の発表を行った。
- ahq eSports Club(直近のシーズンでPCS地域4位)からUniboy選手とKongyue選手が代理加入
- Machi Esports(直近のシーズンでPCS地域1位)のアカデミーチームにおいてADCの経験があり、現在はMachiのコーチを務めるDee選手が代理加入
- いずれの代理もコロナ禍の隔離期間中のみとし、終了次第ロースターを戻す
Official Club Statement regarding #Worlds2020 roster. Thank you for all the support 🙇♂️🙇🙇♀️#PCSWIN #PCSLOL pic.twitter.com/FdNIVqMy4s
— PSG | TALON (@PSG_Talon) September 16, 2020
8月末に行われたPCSの決勝戦からわずかな短期間でこれらのロースター変更が可能となった背景には、PSGが所属するPCS地域の他チームによる助力があった。
JG-MidラインにKongyue選手とUniboy選手を拠出したahq、ADCに現役のコーチであるDee選手を拠出したMachiはもちろん、往年の名門チーム(現在は解散済)であるFlash Wolvesの助けがあったことが上述のPSGの公式声明により明かされている。
なお、Bigfafa監督のインタビューによると、やはり選手探しには非常に苦労したようだ。
中でもADCのDee選手は「(Riotから課された条件である)直近1年間にプロ活動を行っていないアマチュア」かつ「24時間以内に見つかる」という非常に厳しい2つの条件の中で探し出した選手だそうで、あまりの苦労、あまりの悲運に胸が締め付けられる思いだ(なお、仮にアマチュア選手という制限が無ければ、後述する二人と同じくahqに所属するWako選手が候補に挙がっていたようだ)。
ちなみに、JGを務めたKongyue選手は昨年にBigfafa監督がPSGに勧誘していた選手で、結果としてahqへ移籍してしまったものの、その後も親交を続けていたことが今回の助力につながったとのこと。
また、Uniboy選手もシーズン終了後で疲労がたまっているにもかかわらず、チームに積極的に溶け込もうとする責任感のある選手だったようだ。
(詳細は以下の記事を参照されたい)
PSGにとって不幸中の幸いであったのは、連携が重要なJG-Midを、同チームの(しかもWCSを経験したことのある)選手で固められたこと、そして代理でロースター登録した3名が台湾出身であり、ロースター全員を同じ言語圏の選手にできたことだ。
「連携力」というプロシーンにおいて非常に重要な要素におけるリスクを少しでも減らす要因となるこれらのプラス材料は、彼らにとって希望の灯であったことだろう。
とはいえ、勿論これだけでは本来のパフォーマンスに及ぶべくもなく、あくまで小さな灯火でしかない。しかし、そんな状況下であってもPSGは決して腐らなかった。
チーム力不足で受け身になるなどということはなく、むしろ代理加入したKongyue選手とUniboy選手による苛烈な連携力・チームファイト力を活かし、灯火どころかまばゆい閃光の様に他チームを圧倒したのだ。
3.グループステージ以降のPSG
ここまで苦労続きだった彼らにとって一つだけ救われる点があるとすれば、プレイインステージを異例のロースターで戦ってきたことで、グループステージで戦うライバルたちに自らの手の内を隠せたことだろう。
そう、彼らはついに、River選手とTank選手を加えた以下のロースターで、グループステージに集う強豪チームたちとの熾烈な戦いに挑む。
- Top Hanabi
- JG River
- Mid Tank
- ADC Unified
- Sup Kaiwing
プロシーンにおいて「飛車落ち」の状況であっても目覚ましい安定性を見せ、輝かしい成績を残してくれたPSG Talon。
そんな彼らの全開パフォーマンスをいよいよ見られることが本当に楽しみでならない。
最後になるが、この「フルスペック」PSG Talonを見られるのは、急な事態にもかかわらず迅速に手を差し伸べてくれたahq、Machi、そしてFlash Wolvesの3チーム、そして何より代理出場の決意を固めてくれたKongyue選手、Uniboy選手、Dee選手の3名のおかげだ。
心からお礼を言いたい。本当にありがとう。
(文:あきのあまき)